第3回 戦争映画「野火」2/2
映画「野火」の批判第二段です。
前回ではこの映画のリアリズムを解説してきました。今回はもう一つの特徴である、
②文学作品の美しさ
を解説したいと思います。
まず、この野火という作品の原作は大岡昇平の文学小説「野火」です。大岡昇平さんは他にも「レイテ島戦記」という史実に基づくノンフィクション作品も作ってます。
ただ、野火は文学として作ってます。レイテ島の戦う兵士を文学的視点で捉えて作ったんですね。なので、景色や森、川、虫、原住民に関する描写が数多く見られます。その兵士以外のものの美しさと、兵士の惨たらしい姿がさも異質かのように表現されていて戦争の凄惨さを掻き立てています。このあたりの映像としての巧さはほかの邦画戦争ものでは全く無かったものかと。塚本晋也監督おそるべし。
映像美以外にも、文学要素を多分に感じるのが兵士の倫理観の変化です。極限の飢えと死の迫りから、人が人たるもの(倫理観とか道徳観)がどう崩れていくか。そしてそれは極限の環境において正しいのか。
ここに関して結構グロい映像もあるので覚悟を。
ただ、この映画はグロを強調したホラーではないので、田村一等兵をはじめとした兵士の心の変化を楽しんで観てもらうとよいかと思います。
まとめると、
①強烈なリアリティ
②文学作品の美しさ
これが僕の思うほかの映画に無い、野火の良さかと思います。皆さんはどう観ましたか?
塚本高史監督は、高校生のときに小説「野火」を読んで以来、映画化したいと思い続けていたそう。そのせいか、小説にかなり忠実に撮られていると思います。小説から入るのも一興。では。